慶長の役 第二次朝鮮出兵

１５９７（慶長２年）　慶長の役（第二次朝鮮出兵）

第二次朝鮮出兵になります。

秀吉による朝鮮出兵は2度行われており、第一次出兵は1592年の明平定のための侵攻文禄の役、第二次朝鮮出兵の目的は、礼を欠いた朝鮮を成敗する、というものでした。

動員数は前回の約半分の14万強で、主に九州や四国など西国の武将が参加しました。
最大の戦いは、慶長2年12月22日の「蔚山城(うるさんじょう)の戦い」で、築城中であった蔚山城に、明軍の武将麻貴(まき)率いる本隊4万と朝鮮軍２千５百との連合軍が攻め込んだ戦いでした。
急きょ、浅野幸長(あさのよしなが) と加藤清正も駆けつけますが、兵糧を運び込んでいなかったため翌1月には玉砕寸前まで追い込まれました。
しかし、和平交渉で時間を稼ぐ間に、毛利秀元(ひでもと)らの援軍が背後を囲み、不意を突かれた明・朝鮮軍は、兵糧、武器、大砲などを棄て退却しました。

明軍が日本軍の圧倒的強さを思い知った戦が、猛将島津義弘による泗川城（しせんじょう）の戦いでした。
当時の記録によると、３万８千７７の首をとったとされ、明・朝鮮の連合軍は島津軍を「石曼子(シーマンヅ)」と恐れたと言われています。その強さは語り継がれて、日清戦争において「石曼子」といえば、中国人は怖がったということです。

ちなみに島津義弘は、後に剃髪して惟新斎（いしんさい）と名乗り、惟新公と敬称でも呼ばれました。
戦国時代屈指の猛将で武勇の誉れ高く、「石曼子」とは「鬼島津」のことを指します。

逸話も多く残されており、医術や茶の湯、学問にも優れた才能を持つ文化人でもあったようです。家臣を大切にしたので多くの家臣から慕われ、死後、殉死禁止令が下ったにも関わらず13名の殉死者を出したということです。

また京都に本社を置く精密機器製造メーカー島津製作所は、島津義弘ゆかりの企業としてその歴史に記されているそうです。
義弘が秀吉から拝領した播磨国（現兵庫県山陽道）を管理する時、井上惣兵衛尉茂一という人物が検地などで協力したため、そのお礼として島津姓と家紋を授けたということです。この井上惣兵衛尉茂一が島津製作所の創始者・島津源蔵の祖先とされています。

参考：島津義弘

さて、圧倒的強さを誇った日本軍は朝鮮を占領する可能性もありましたが、慶長３年（１５９８）８月１８日、秀吉が病死したことで、4大老の毛利輝元、宇喜多秀家、前田利家、徳川家康が朝鮮からの撤退命令を出しました。
講和は各諸侯の判断にまかせたとされ、それぞれが出先で講和を進め、釜山に集まり帰国しようとするのですが、ここで待ち受けていたのが、朝鮮の英雄・李舜臣(りしゅんしん)と明の大将陳璘(ちんりん)が率いる水軍でした。
海上を封鎖された日本軍は、島津軍の援護を受けますが、ここでの通説として、島津軍は海上にある敵の大軍に驚いて「大苦戦のすえ命からがら逃げた」というものがあります。

しかし、実際には島津側の主な武将は全員無事であったのに対し、明水軍の副将鄧子龍(ていしりゅう)は斬り殺され、朝鮮水軍の大将李舜臣は鉄砲の弾丸にあたって死んだ他、幹部数人が戦死しました。

渡部昇一氏の指摘によると、明や朝鮮の報告書は、皇帝に誉められることが目的のため、都合のいい嘘を書き連ね、十倍二十倍という誇大な戦果報告をしている、としています。
さらに以下の指摘。

【引用】
明の兵隊は朝鮮人の首を切って日本人の首だと言って出世した。朝鮮人も同胞(どうほう)の首を取って差し出したという。
渡辺昇一著　読む年表日本の歴史　124ページ

明の文献によると、この戦いで「府庫(ふこ)、虚耗(きょもう)す（明の蔵は空になった）」とされ、戦場となった朝鮮半島では統治の不全から治安が悪化し、明軍の駐屯による略奪なども後を絶たなかったようです。

慶長の役は戦果としては、日本軍の勝利と言えますが、この時代の東アジア情勢を大きく変えました。
朝鮮出兵は、朝鮮の反日感情の元とされていますが、当時の朝鮮民衆の感情としては、第一の侵略者は日本、2番目は明と認識されていました。
しかしその後、国内の両班階層（支配層）が、明の援軍のおかげで朝鮮は滅亡を免れたという意識（「再造之恩」）が強調流布され、明への恩義を重視する思想が広まった、とされています。

この戦役の結果、明・朝鮮ともに経済的疲弊、政情不安定となり、台頭してきた女真族のヌルハチによって明は滅亡し、1616年後金（こうきん＝後の清）を建国しました。

清は朝鮮半島へ服従と朝貢を要求しますが、丙子の役（1636～1637）で朝鮮は抵抗します。
朝鮮はこの戦いに敗北したことで、1894年の日清戦争まで清の属国、清への冊封体制の時代に入って行きました。