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西加奈子「うつくしい人」と中二病 [読書]

去年、西加奈子さんの「サラバ!」が直木賞を受賞し、書評を読んで「面白そうだな」と思っていました。
今回読んだのは「うつくしい人」、題名に惹かれて読んでみました。

どんなうつくしい人に出会えるかしら、と思って読みだしたのですが、、、、、わたしにとっては主人公に共感できない残念な?小説になりました。

ウィキペディア・西加奈子さんの「人物」には「ひそかに小説を書いては一人で悦に入っていたが、人に読ませたところ『技術はあるけど感情が無い』と言われた」とあり、この作風はこの人の持ち味なのだということが分かりました。

お金持ちのお嬢様である主人公百合は、親のカードで何不自由のない生活をしています。
ある時途中入社した職場で失敗し座り込んでメソメソ泣いたことで、会社を辞めてしまいました。
そこで突然旅行を思い立ちます。

百合は周りの苛立ちを極度に意識する性格、また、そのために返って自分をさげすむ、プライドの高さゆえに他人をも見下す、そしてそういう自分に自己嫌悪する、というこういうのを今時の「中二病」というのでしょうか。
でも親が支払ってくれる1LDKのマンションがあるからいつも逃げることができる、生活にも不自由しない、支払いは「カードでお願いします」。
瀬戸内海の島に5日間の傷心旅行に出るのですがそこでも楽しめない主人公。

【引用】
「高松空港行き、一名様、ですね?」
私がひとりだということを、どこかばかにしているような気がする。気がするだけ、全く私の思い過ごしだ。でも、私は彼女の顔を見ることが出来ない。
どうして高松に行くの?ひとりで?実家があるの?
そんなこと、彼女が思っていない事も分かっている。早くここを去らなければ、ほら、モタモタとチケットを受け取る私に彼女は苛立っているように見えるし、私の後ろに並んでいるサラリーマンは、わたしの手元を覗き込む。早くしろよ、こっちは仕事なんだよ。

私の格好は絶対に仕事に行くように見えない。鮮やかなプリントのクロエのワンピース、ラスの赤いウエッジソール。だから苛立っている彼のことを、私も仕事なのよ、と睨むことが出来ない。そもそも、誰かを睨むことなど出来ない。
――――引用終わり
西加奈子著 「うつくしい人」7ページ

百合は瀬戸内海の島で5日間を過ごすのですが、素足で自然に触れ、バーで知り合ったマスターやドイツ人の若者に本音をぶつける中で、人は自分が思っているほど悪人ではない、ということに気付いていきます。
みすぼらしいと思っていたマスターが、実は海外で仕事をしていた(彼女的には)エリートだった、そして母親の遺産で自分探しをしているドイツ青年は純粋な人間だった、ある意味プライドが高い百合にとっては、こういう存在の方が自分を納得させるにはよかったのかもしれません。

自分がこの旅で思い出しては否定し、また思い返す「うつくしい姉」、「引きこもりの姉」ともう一度向き合おうとする、という物語です。

きっかけとなる出来事があります。
ある夜、ホテルの図書室で本に挿んであった写真を3人で探すのですが、そこで姉がよく読んでいた、そして自分に読み聞かせてくれた「愛のゆくえ」という本を見つけて、涙がぽろぽろと次から次にとめどもなく流れる場面です。

共感できなかったのは、おバカだったかつての自分を思い出したからだと思います。
神経過敏と言いますか、おさないといいますか、百合も自覚しているんですよね。
一度だけ「中二病」という言葉も出てきます。

わたしにとっては、昔の自分、親も周りも見えずに自分だけで生きていると思っていた、あのときを思い出した小説でした。
それで、「うつくしい人」とは何だったのか。

読了感は悪くなかったです、人生の1ページという本でした。
ちなみに中二病とはこちらです。

中二病というのは時々発症するようです・・・。


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